「ボナンザ」の生みの親、保木邦仁
私が長くやっている、いちかわエフエムのラジオ番組。「ムラヤマに聞け!」という番組のタイトルは、将棋の故村山聖九段にささげたものだ。
今回は、コンピューター将棋プログラムの、「ボナンザ」について書きます。え?音楽とはまったく関係ないじゃん!といえば、そうかもしれないが、私なりにはリクツはあるんです。
というのはだ。先日、将棋の渡辺明竜王と、コンピュータ将棋プログラムの「ボナンザ」が戦い、テレビで放映されたんだがこの演出がすばらしくてね。もちろん、渡辺明はブログ界では私の大先輩であるし、そしてなにより、ボナンザをつくった保木邦仁が、ちゃんと「芸」を心得た人間であった。しっかりと「芸」に敬意をはらっている人間であったということが、私には嬉しくてしかたがないんだ。
将棋。今のところは、人間のほうが強い。そこでコンピューターをやっている連中が、なんとか人間を負かそうとしているのが、現在の状況なんですね。
これがですね。もし、将棋が実はぜんぜん好きでもなくて、将棋のプロ棋士の名前などひとりも知らなくて、月刊「将棋世界」を購入してもいないようなプログラマーが、羽生善治や佐藤康光、森内俊之や渡辺明を倒そうとしているのなら、私は軽蔑します。
だが、これは「渡辺竜王VSボナンザ」のテレビを見ていて、はっきりとわかったんだが、ボナンザの生みの親、保木邦仁は将棋が好きですね。プロ棋士の世界のことをわかっているし、将棋のプロの芸というものに対して、敬意をはらっている。対戦相手の渡辺明はもちろんのこと、自分の隣に座っている修行中の奨励会員にさえ、えらく気をつかうんです。
保木邦仁。この人はすごいプログラムをつくったわけなんだが、ショーバイでやったんじゃないよ。仕事はカナダの大学院の研究室で、趣味でつくったものだ。ボナンザはフリー・ソフトウェア無料でダウンロードできる。私が戦っても勝負にならないので、やったりはしないがネ。
何より「ボナンザ」というネーミングがすばらしい。将棋ソフトね、みな「森田将棋」とか「金沢将棋」とか、制作者の名前をつけたがるんですよ。「ボナンザ」は、語呂がよいし、一発で覚えられる名前だ。これが「激指」じゃつまらんし「東大将棋」じゃムカつくだけ。「東大将棋」にだね、世界屈指の頭脳集団である将棋のプロ棋士が負けるなどということがおこったら、面目丸つぶれどころか、歴史的ハジだよ。
保木サン。素晴らしいよォ。二十歳前の奨励会員の前ではえらく気をつかっているくせに、休憩所のNHKのテレビカメラの前ではプカプカ煙草をふかしまくる、そのクソ度胸。いやァ、あの煙草はね。これを商売にしてやろうとか考えているプログラマーだったら、絶対にできないヨ。それにね。対局場では、テレビうつりを意識しているし、わざと自分を弱くみせている。自分がどうふるまえば、このイベントのためになるか、そこまで考えた、立ち居ふるまいであったよ。
たばこのー けーむりーも もつれるおもいー
むねーのふりこが つーぶやく やさしき その名
花は霧島 たばぁこぉはぁ こくぅぶ
燃えてあがるは おはらはぁ さくらぁじぃまぁ
将棋もね。スポーツもね。音楽のコンサートもね。ライブであるし、芸なんですよ。己の個性がにじみでる勝負なんです。私は、ロックのライブをみたり、サッカーを観戦したり、将棋の棋譜をみたりするが、実はそんなに違うことをやっているつもりはなくて、人間の芸ということでは、みな同じなんだよ。
そして、羽生善治や谷川浩司、米長邦雄や内藤国雄が一級の芸人である。将棋ファンが何を考え、何を望んでいるかを心得た芸人である。そんなことは将棋ファンなら誰でもわかっていることなんだが、私は嬉しいんですヨ。保木邦仁も、そっちのほうの人間であったことが嬉しいんだ。
だってね。音楽の世界じゃ、そっちじゃないほうの人間がウジャウジャいるんだ。もう、ウジャウジャ、ウジャウジャ。特にアメリカがひどくてね。グラミー賞だ、ナップスターだ、全部ね。音楽なんてこれっぽっちも好きとは思えない人間がつくったものが多すぎるんだよ。音楽を食いつぶして、グチャグチャにしてしまった人間がいっぱいいるんだ、クソ!
だから、私は思う。将棋はそうなるなよと。外部の人間なんかいれるなよ。「ボナンザ」の保木邦仁や、「将棋倶楽部24」の久米宏は、とうぜんよい。だが、将棋が好きでない人間、芸のことがわからない人間は、どんな経済学のケンイであろうと、絶対にいれてはいけない。
人間VSコンピューター。何年後か、いずれ、コンピューターが勝つ日が来るのだろう。そして、その日、対局場にいるのは「ボナンザ」であってほしいと願う。羽生善治か、渡辺明か、佐藤康光か、誰がその役目を引きうけるかはわからないが、そのとき人間が頭を下げる相手は、保木邦仁のような人であってほしいと願う。まァ「東大将棋」が挑戦者で出てくる年もあるのだろうが、そのときは、人間、負けるなよォ。
名人戦の季節ですね。森内俊之名人に、郷田真隆九段が挑戦しています。現在、郷田挑戦者の2連勝中。第三局の対局場は、三重県鳥羽市の「戸田家」。鳥羽一郎・山川豊を生んだ地でありますと、むりやりオチをつけたところで、本日はここまでです。
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コメント
全く同感です。保木邦仁さんと渡辺明竜王の人柄が素晴らしくて今回の「渡辺竜王VSボナンザ」の企画は成功したのだと思います。個人的には将棋でプロ棋士がコンピューターに負ける日は来て欲しくないのですが、もしその日が来てもそのコンピューターが商業主義・権威主義に侵されていない純粋な将棋ファンの人が作ったものであるように願っています。
投稿: 一将棋ファン | 2007年5月 7日 (月) 11時09分
一将棋ファンさん投稿ありがとうございます。
連休中に、コンピューター将棋選手権がありましたが、ボナンザは負けましたね。YSSという将棋ソフトが優勝したので、来年やるとすれば、YSSが挑戦者になるのかもしれません。
渡辺明は、生での解説が本当にすばらしいです。私はだいたい年に1回か2回、連盟の順位戦の解説に出向くにすぎませんが、渡辺明の解説は本当に金を払って観る価値がありますよ。今のNHKの講座も力の入った内容ですが、本当はアドリブでしゃべらせるのが、いちばん面白い人です。
投稿: T. Serisawa | 2007年5月 8日 (火) 08時30分