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あなたを殺していいですか

 隠しきれない 移り香が いつしかあなたに 染みついた
 誰かにとられる くらいなら あなたを殺して いいですか

ご存じ、石川さゆりの「天城越え」。いま、調べると昭和61年とあるから、私が最初に聴いたのは中学1年のときか。

まだ、美空ひばりも生きていたし、都はるみは当時、活動休止中だが、そのころ両方ともCDでヒット曲のひととおりは聴いている。だが、中学1年の芹沢少年がマイッタのは、石川さゆりの殺し文句のほうでしたネ。

だから、私は「津軽海峡・冬景色」のほうは、いわば後追いで、リアルタイムの石川さゆりというと、「波止場しぐれ」「天城越え」「滝の白糸」「風の盆恋歌」になる。その後、数年で渡米するから、だいぶ抜けてしまうんだが、「ウィスキーがお好きでしょ」「恋は天下のまわりもの」「春夏秋秋」あたりまでは、よく聴いていた。市川市文化会館のコンサートにも一度きりだが行った。第一曲目が「能登半島」で、コンサート中盤で「木遣りづくし」や「さのさ」をやったということは、ちゃんと覚えている。

私にとってラッキーだったことは、平成3年から、彼女が「二十世紀の名曲たち」というシリーズ物のCDをリリースしはじめたことだった。

第1集-「蘇州夜曲」「鈴懸の道」「リンゴの唄」「港がみえる丘」「憧れのハワイ航路」「胸の振子」「東京ブギウギ」「星の流れに」「踊子」「湖畔の宿」「水色のワルツ」「東京ラプソディ」「君の名は」「ゴンドラの唄」。

第2集-「明治一代女」「銀座カンカン娘」「長崎物語(じゃがたらお春の唄)」「東京の屋根の下」「夜来香」「三味線ブギウギ」「別れのブルース」「暁に祈る~ふるさと」「白い花の咲く頃」「女ひとり」「遠くへいきたい」。

第3集-「東京の花売り娘」「東京ドドンパ娘」「カスバの女」「私の青空(MY BLUE HEAVEN)」「さくら貝の唄」「道頓堀行進曲」「すみだ川」「上海帰りのリル」「君恋し」「あざみの歌」「桑港のチャイナタウン」「カチューシャの歌(復活唱歌)」。

なんと素晴らしい選曲だろう。特に、前田憲男がアレンジの第1集と第2集に、服部良一作品が多いのが特徴的だ。こんだけの養分を、私が十代のときに与えてもらったということが、私のかけがえのない財産になっているのです。

ホントに今になってつくづく思うが、高校生くらいのときに、「明治一代女」や「すみだ川」を知っておいてよかった。あのときに、「明治一代女」のスバラシサをわかっていたとはとても言えないが、聴いていただけでぜんぜんちがうんですね。

この選曲の趣味のよさ。センスのよさ。頭のよさ。第1集のリリースのときが、石川さゆりが32歳で、私が16歳だ。「蘇州夜曲」や「胸の振子」を、私に教えてくれた師匠。足をむけて寝られない、大先生であります。

その後は、ミック・ジャガーやキース・リチャーズ。新しい大先生たちに入門し、十年間くらい、ほとんど日本の歌なんか聞いちゃいなかったので、私なんかは、石川さゆりからみると、不肖の弟子ということになるかもしれんのだが...。

でも、なんのインタビューの発言であったか覚えていないのだが、「演歌とは本来、格好いいものだと思うんですね」という石川さゆりのことばが、頭の片隅に残っていた。このことばを覚えていたから、私は、すこし回り道はしたかもしれないが、服部良一を二十代後半で聞きなおしはじめ、氷川きよしも受け入れることができた。

今、十代、二十代でしっかりと氷川きよしを聴きこんでいる人たちは、氷川きよしの「流転」に、「男の純情」に、「無法松の一生」に。感謝する日が来るはずだよ。きっと。

「二十世紀の名曲たち」シリーズは、1年に1枚ずつリリースしながら10年間続いた。第5集、第10集は、日本に帰ってから手にいれた。特に、「第10集」の「ルイジアナ・ママ」は、石川がテイチク移籍の直後に録音したもので、すなわち、テイチクの社長の飯田久彦の「ルイジアナ・ママ」であるわけで、こういう選曲のしかたが実に彼女らしい。

まだ、聴いていないものが5枚も残っている。そりゃ、私だって、なんでもかんでも、手あたりしだいに、金だして買っているわけじゃないんですヨ。今じゃ、廃盤になっているものばかりだし。

「二十世紀の名曲たち」の残り5枚。宿題なのさ。石川さゆりの姿をテレビで見るたびに、この、途中で投げだしてしまった宿題のことを思いだし、後ろめたい思いにとらわれてしまう。

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